みどりうさぎの子守詩 (片井 絽々)


「 つきあかり 」
 


露天風呂に
満ちはじめた月が泳ぐ

母と私
夜に散らされた星の下

無言の母は
月を見ているのだろうか?
星を眺めているのだろうか?

夜空に目を向けたまま
思い詰めたように
母が ぽつりと話し始めた

「母さんは、
子供達や孫達が
ひとりも欠けず生きていること
それが一番の幸せです」

「けれども、
何時も あんたは
幸せって 言ってくれるけど
本当の幸せになって欲しいのです」

さっきまで見えていた月が
見えなくなった

母と私
夜の星達が滲んで見えた

かあさん・・・私は幸せだから
かあさん・・・私は大丈夫だから

2011年 10月 28日 掲載


「借りた言葉」


仕事と言う言葉に
言い訳を背負わせた身勝手

忙しいという言葉を借りて
心を遠ざけた我が儘

きっと 気付いていながら
受け入れてくれたのですね。

借りた言葉へのお返しは
自責の思いと寂しさでした。

2011年 10月 25日 掲載


「千年の孤独」



千年の月 夏還し
想い余して
夕焼け空が沈む

千年の月 秋降らし
風がしみると
コオロギが啼く

千年の月 冬控えさせ
銀色の矢羽根を
星が射ち放つ

千年の月 気まぐれに
心 奪いて
人を叶わぬ恋に泣かせる

千年の月 千年の孤独
夜に吊るされ
何を眺めて何思うて

2011年 10月 21日 掲載


「秋日」

地球は
淋しがりやの星だから
月と一緒に揺られます。

人達は
切なく生きる動物だから
愛する心を持ちました。

秋の日は
夕暮れのススキも誰かと居たくて
風を そっと呼び止めました。

2011年 10月 17日 掲載


「瞬間」


異常と言われた季節は
たった一夜で移り変わった

豪快に笑う大きな背に
たった一筋の涙を見てしまった

誇らしげに咲いていた花も
たった一日でポトリと落ちた

信頼していた人の
たった一言が悲しみを連れて来た

永遠と信じたこの蒼い星の
たった一周の儚さに気付いた

何気なく生きて来た日々は
たった一瞬で変わるものだと知った

一番大切にしなければならないのは
今の この瞬間なのかも知れない

2011年 10月 12日 掲載



「違う朝」

同じ太陽の下では
同じ朝から始まるのだと疑わなかった。

けれども それは・・・
          
偶然に続いていたのだと
知ってしまった。

2011年 10月 11日 掲載


「笑顔の作り方」

かなしい歌しか唄えない私に
小さな子供が
笑顔で教えてくれました。

「ほら、こんなふうな お顔をすると 
                 かわいいよ。」

うつむいてばかりの心に
老いた人が 
こっそり教えてくれました。

「今のうちに 空を見上げておかないと
                 もったいないよ。」

そうですね・・・本当に そうですね。

見上げると
秋の雲を抱いた大空は
どこまでも どこまでも
     未来へと続いていました。

2011年 10月 06日 掲載


「物語のつづき」


悲しみ色の
形容詞を
全部抱えて
泣いていました。

何かが
迷子の心を
誘いに来たから
後を追って
深い森の中へ
ついて行きました。

テンペルの香りに促され
涙色の想いを
すべて吐き出したのです。
色の無かった花達が
真っ赤な血の色に
咲きました。

ここで物語は
終わるのですか?
ここから物語が
始まるのですか?

2011年 10月 04日 掲載


[時の記憶]

時を刻む音は
ひとりひとりの
鼓動だった

身体ごとに違う速さで
ひとりひとりが
違う音だった

時の流れは
宇宙との約束ごとで
ひとりひとりの記憶だった

だから
急ぐことなんかない
あなたらしく過ぎればいい

だから
焦ることなんかない
あなたの記憶で進めばいい

2011年 9月 24日 掲載


「母恋唄」

八十を過ぎた母さんに
なんで辛いと泣けましょう
小さくなったその背を見たら
何も無い振りしていたいのです。

あなたも陰で泣きながら
笑顔で育ててくれたこと
今になって知りました
ここまで生きて やっとわかった。

八十を過ぎた母さんに
なんで涙 見せられましょう
あなたが私を呼んだから
いつも通りに振り向いたけど

なのに なのに 母さんは
この手を何度も撫でながら
「こんなに太い節になって・・・」と
老いたその手で抱きしめました。

はらはら落ちた母の涙は
全ての くやしさ許せるようで
かつて子宮にいた頃の
ぬるく切ない海でした。

どんな私をも
待っていてくれたのですね。
いくつの私をも
待っていてくれるのですね。

もう一度だけ もう一度だけ
母さんの側で泣いても良いですか・・・

2011年 9月 16日 掲載


「晩夏」

朝夕の風
秋ひそやかに近づいて

知ってか知らずか
最後の蝉が鳴きじゃくる

命がけの夢歌か?
辛い覚悟の恋唄か?

小さな蝉さえ
なりふり構わず

精一杯に
生きているのに

頑張らなくてどうする
この心よ・・・

2011年 9月 15日 掲載


「赤い花の歌」

蠍座の赤いアンタレス
欠片こぼれて咲いた花

赤く赤く染まった花が
今を限りに唄う夏歌

赤い赤いカクテルドレス
遠い記憶が乱舞する

赤い赤い花の歌
赤い赤い夏の華

黄昏の景色を風が揺らし
瞬きが空に散らされる刻

音もたてずに花を閉じ
誰にも知られず色を消す

赤い赤い花の歌
赤い赤い星の華

紅い月 満ち満ちて
紅い雫 ひとすじ舞う夜

終わらない夏を終わらせたのは
プアゾンの花 蔓珠沙華
踊れ踊れ刹那の時を

心の下層に沈めたままの
気持ち裏腹 嘘ぶいたまま

ひたすら待っても秋は巡らず
ジェラシーの花 蔓珠沙華
踊れ踊れ狂おしく

それでもピュアな ふりして染まる
それでも古風な ふりして揺れる

紅い月 満ち満ちて
紅い涙 いくすじも落ちた

2011年 9月 13日 掲載


「星の結晶」

体は生きるために命を入れて
碧い星に舞い降りた
心は存在する全てのものを
慈しむために備えられた

この命と心は
自分のためだけのものでもなく
この命と心は
誰かのためのものだけでもなく

摩訶不思議な偶然と
繊細すぎる偶然が創りあげた
一粒ごとの神聖なる星
一粒ごとの星の結晶

時空の流れの刹那の今を
担うに相応しい
選ばれし小さな星達だけに
許された この命とこの心

2011年 9月 09日 掲載


 「蝉のぬけがら」

短い夏に張り付いて
       寂しいとか・・・
         虚しいとか・・・
           切ないとか・・・
そんな言葉を並べたてる

嘘っぽい涙も流してみせる
なおさら 悲しくなるだけなのに

そうなる自分を知ってもいるし
そうなる自分を嫌だと思う

けれども けれども このままでは
心にも無い さよならを・・・

告げてしまう 夏の蝉
告げたら啼けない 蝉のぬけがら

2011年 9月 06日 掲載


「行き逢いの空」

風は ふと秋色めいて
夏枯れの心をなだめようとする

空高くには行き逢い 待ち雲
空低くには行き逢い 未練雲

むかえるべき次の季節を
頑なな心 思い惑う

行き逢いの空の下
ふたつの心が交差する

2011年 9月 01日 掲載


時計草  

63億年の時空の中で
未知の命を繰り返す

鳥に憧れる君と
魚になりたい僕と

分子の配列は似ていても
望む姿には生きられなかった

67億年目の空の隅で
隣同士に咲いた花は

鳥に憧れる君と
魚になりたい僕だった

2011年 8月 24日 掲載


旅人

どれだけの日々を越えたら
生きることが
簡単になるのだろうか?

どれだけの切なさが消えたら
もっと上手に
笑えるようになるのだろうか?

どれだけの歳を重ねたら
自分を
好きになれるのだろうか?

きっと誰もが
手探りをしながら
この旅を続けているのだろう・・・。

2011年 8月 20日 掲載


西陽

心に刺した矢のような
矢車草の切なさよ

風に言われて北を向いた
空に呼ばれて西を向いた
それは愛しさ?
それとも切なさ?

そろり故郷へ向いて想う
父よ母よ幼き日々よ
何ひとつ 辛いことなど無くて
何ひとつ 苦悩することも無くて

振り向くと後ろには父が居た 
どんな時も母が待って居た
若かった頃の 父よ母よ
小さな私と弟よ

あの庭に咲いていた
矢車草が今年も咲いたと
ただ一緒に見たいと 思い出しただけのこと
ただ一緒に頷きたいと 思い出しただけのこと

2011年 8月 12日 掲載


「 ねむの木 」

現世に生きる道すがら
夢を見る
夢を見る

刹那の悪夢と
また 歩き出す

未来を眺める時空間で
夢を見る
夢を見る

碧き星は
神々しく輝いている

まどろみの中で 目を開けると
若き日の 母の胸に
抱かれていた

その背景には 大きな大きな 
ねむの木が
綿毛のような花を咲かせる

天空を染めるほどに
優しく静かな 花色だった

穏やかな 揺らぎに包まれて
夢を見る
夢を見る

2011年 8月 10日 掲載


「 時の音 」

幸せの時は 流れ行くのに
悲しみの時は 止まったままで

幸せの日々は 忘れ去るのに
悲しみの日々は 追いかけて来る

時は自分の中で刻むものだった
時は心に合わせて流れるものだった

音になれない声で泣く
時になれない想いが泣く

涙の音が 今の私の時の音
心の音が 未来の私の時の音

鼓動は生かされている証の音
呼吸は未来へ進む為の証の音

2011年 8月 08日 掲載