みどりうさぎの子守詩 (片井 絽々)

13928
「 疑問符 」

.
初めて会った人が私に問うた。

何に迷っているのですか?
何に戸惑っているのですか?

私は驚いて尋ねた。
何故にご存知なのですか?

初めて会った人が笑って言った。

私も同じだからです。
あなたに教えて欲しかったのです。

何歳になれば解るのでしょうね。
それゆえ生きているのでしょうか?

.

2013年 9月 28日 掲載

914
「千年の孤独」

.

千年の月 夏還し
想い余して
夕焼け空が沈む

千年の月 秋降らし
風がしみると
コオロギが啼く

千年の月 冬控えさせ
銀色の矢羽根を
星が射ち放つ

千年の月 気まぐれに
心 奪いて
人を叶わぬ恋に泣かせる

千年の月 千年の孤独
夜に吊るされ
何を眺めて何思うて

,

2013年 9月 14日 掲載

97
「行き逢いの空」

風は 秋色めいて
夏枯れの心をなだめようとする

空高くには行き逢い 待ち雲
空低くには行き逢い 未練雲

むかえるべき次の季節を
頑なな心は 思い惑う

行き逢いの空の下
ふたつの心が交差する

.

2013年 9月 07日 掲載

92
「夢幻」

        .
永遠よりも遠い夜明け
漆黒よりも深き彩度

命を眠らせ夢にさまよう

永久よりも遥かな夜
無音の中で幻想に抱かれる

現世よりも優しき夢回路

母の子宮に漂い蘇る
ここは誰にも邪魔されぬ異郷

明日への命を構築させる

.

2013年 9月 02日 掲載

829
「祈りの山」
.

その山の頂きまでが
人々に許された
この地球という星の地

青色に染められた空までが
人々と鳥達と
この星に渡された時空

そこから先は
色を持たない神々の天空
祈りの山は宙と語り続ける

.

2013年 8月 29日 掲載

_13823
「夏ゆれて」


ひと夏が揺れている
見えない程の風に促されて

暑く熱かった景色が
僅かに別な色を加えた

僕は知っている
夕刻と朝を幾度か重ねながら

ひっそりと夏が
思い出に変わって行くことを

誰もが夏に疲れた振りして
寂しさを隠すのだろうね

2013年 8月 23日 掲載

89
「無風 」
.

 
大切な人は少なくていい
心配の数が増えてしまうから

愛せるモノは僅かでいい
不安ばかりが絡みついて来るから

幸せや夢も欲張らなくていい
追いかけていたら切りがないから

.

2013年 8月 09日 掲載

87
[子猫に恋した黒い猫] …みどりうさぎの小さな物語より…

.
真っ黒でビロードのような毛と、真っ直ぐ長い尾が自分でもお気に入りなんだ。
路地裏を散歩すれば女の子達がなにやら騒がしくなる。
見かけだけではなく、仲間からの信頼も厚い・・・そう、この町でボクを知らない猫はいない。
しかし実は、決して誰にも知られたくないが 猫見知りでナーバスなところがある。
そのせいで、今日まで一度も大好きな子にコクったことなど無いんだよ・・・。

そんな、ある日の午後だった。突然、胸がキューンとするような子猫ちゃんに出逢ってしまった!
ボクは一瞬で恋に落ちたんだ。
自慢の長い尾を一直線に空に向け、わざとさり気なく歩いたけれども体が揺れるほどドキドキだった。
子猫ちゃんは、その場から動こうともせず じっとボクを見ていたんだよ。
もしかすると、ボクのこのステキな尾に見とれているのかなと思いながら・・・ちらっと振り返った。
そうしたら、彼女のまんまるい瞳から大粒の涙がこぼれていた。ボクは驚いて、思わず近づいたんだ。
彼女は泣きながら言った・・・。
「どこか遠くのお家へ行っちゃった私のお兄ちゃんと、同じ しっぽだったから、思い出して淋しくなったの」
そうなんだ・・・ボクは彼女が泣き止むまで側にいてあげた。

それからと言うもの、朝も昼も夜も、ボクのことをお兄ちゃん、お兄ちゃんと呼んで傍から離れようとしなかった。
ボクは、可愛くて可愛くて 大好きで大好きで・・・
ボクにくっついて眠る子猫ちゃんを、何度も抱きしめたくなっては我慢した。
これが、葛藤っていうものなのかもしれないな。

ある暑い夏の夜のこと、彼女の小さな体は、高い熱で小刻みに震えていた。
お兄ちゃん お兄ちゃんと、うわ言のように繰り返していたんだ。
きっと、本当のお兄ちゃんに会いたいのだろうな・・・と、思うと可哀想だった。
閉じたままだった彼女の目が少し開いた時、ボクを見て安心したように「お兄ちゃん」って呼んだ。
息をするのさえ苦しそうなのに ずっとボクのことを、呼び続けていたんだね。

ボクは決めたんだ!
この子のお兄ちゃんでいようと。ずっと、この子を守ってあげようと。
でも、大好きなんだよな・・・。 でも、お兄ちゃんだからさ・・・
きっと、ボク達はいつまでも こうして寄り添って一緒に生きていくような気がする。

2013年 8月 07日 掲載

85
[ 月の森の少女 ] … みどりうさぎの小さな物語より…
.

西の空を見てごらん・・・綺麗な月だね。
弓のような今夜の月を 上弦の月っていうのだよ。
ほら、三日月の近くに並んでいるみっつの星が見えるかい?
みっつの星の真ん中に小さな星があるだろう。
そう、お月さまと同じ色をした星・・・。
今夜は、あのお星さまの お話しをしてあげよう。

昔 ある森の中に、小さな女の子がひとりぼっちで住んでいたんだよ。
その小さな女の子は、いつも泣いてばかりだった。
毎晩、毎晩、月明かりが照らしてくれるのだけをひとり待っていたのさ。
お月さまの光が森を仄かに包み始めると、
女の子は木々の間を追いかけて夜明けまで星空を見上げて過ごしたのです。

ある夜のこと、空から夜ごと女の子見ていたお月さまがに悲しそうな声で言いました。
「空を飛べる靴をあげようか?」
女の子は、うれしそうな笑顔をすると迷わずに答えました。
「はい!私に空を飛べる靴をください。」

そして・・・月の雫が森の小枝に、ふた粒落ちて来ました。
その月の雫は、たちまち黄色い小さな靴になりました。
その黄色い靴は、女の子の小さな足にぴったり合ったのです。
しばらくスキップをしてみたり、そっと枯れ葉を踏みしめてみたり。
そして、お気に入りのドレスに着替えた女の子はスカートの裾を広げて何度も何度もクルクルと回りました。
それはそれは楽しそうに・・・

月明かりが女の子の足元を照らした時、そのまま小さな手で月の光につかまったのです。
黄色い月色の靴は、軽々と女の子の体を空へと運んで行きました。

そう・・・ひとりぼっちで泣いてばかりいた女の子は、お星さまになったんだよ。
空には、随分前にお星さまになってしまったお父さんもお母さんもいたんだ。
星になった女の子は、もう淋しくなくなったのだろうか・・・。
それからはこうして、ずっとみっつの星が お月さまの近くで何百年でも光っているのさ。

けれどもね・・・空を飛べる靴を履いてしまうと、もう二度と地球には戻っては来れないんだよ。
だから辛い事があっても、泣いてばかりいないで頑張らないといけないのさ。

2013年 8月 06日 掲載

85
[ 僕の背中の羽 ] … みどりうさぎの小さな物語より …

.

押し入れの中に ずっと入れたままだった僕の背中の羽・・・。
どうしてかな ? なぜか急に思い出したんだ。

たぶん 窓から見える星空が あまりにも綺麗だったからだと思う。
この羽で夜空を 飛んでいた頃のことを思い出したのだろうね。
あの頃、僕の背中で この羽がしゃんと羽ばたいていたっけな。
君が淋しい時、すぐに会いに行って あげられるように・・・
君が泣き出しそうな時、すぐに飛んで行って あげられるように・・・・

いつからだろうね。
僕の背中の羽なんか 要らなくなってしまったのは。
君はもう、すぐに会いたいなんて言わなくなったし・・・
君はもう、泣いたりなんかしなくなったし・・・
だから … もう
僕の背中の羽は 邪魔になってしまったのさ。
子供の頃に遊んだ超合金のオモチャみたく、はずすのなんて簡単だった。
そして、僕の背中のパーツを乱暴に押し入れの中に投げ入れたんだ。

もう 次の恋が始まっても僕は知っているよ。
あの頃のように空なんて飛べないってこと
あの頃のように夢を追いかけられないこと
もう … 羽はいらない
もう … 羽なんかいらないんだ

明日はゴミ出しの日だから僕の羽は粗大ゴミの袋に入れよう。
忘れてしまいたい思い出は 燃えるゴミなのかな?
じゃあ、消えない想いと涙は 不燃物のほうだね。
さよなら … 僕の羽
さよなら … 僕の大好きだった君
明日からは、自分の足で歩いてみるよ !

.

2013年 8月 05日 掲載

727
「熱中症」
.

大脳から出された
指示が
伝達されていない

身体を形成している
たんぱく質が
変性してゆくようだ

心だけが勝手に
自由意思で
暴走を始めてしまった

この夏模様のせいだろうか?
あの恋物語のせいだろうか?
それとも夢の中なのだろうか?

.

2013年 7月 27日 掲載

_722
「星になる花 」

.
夏の夜
夢見て咲くは
星の花
夜空を飛びて
星になる
夢 叶うようにと
散ることもせず

月明りの中で
咲いてみる
飛んでみる
願わなければ
夢にもなるまい
何時の夜にか
星になる

2013年 7月 23日 掲載

20
「儚き夢」
.

僕の感情のカテゴリーに
欲望など無かった
必要となる対象すら
気づかずにいたらしい

僕の老いてゆく体の中で
羨望にも似た奇妙な心と
あらゆる場面で交差することに
最近 戸惑い始めた

僕のささやかな命の終盤に
全てのモノが偉大で
黒いゴマ粒のような自分の存在が
訳もなく悔しくなってしまった

僕の人生の儚き夢達が
後悔を残すこと無きように
我が儘に自由に叶えさせてやりたい
魂を満足感で満たせてやりたいと

.

2013年 7月 20日 掲載

718
「定めの中で」

  .
定めの中で人をする
寂しいのは誰も同じと
  
定めの中で夢をみる
追いかけるから遠いのだと

定めの中で恋をする
心は身体にひとつだけと

定めの中で生きている
だからこそ生きていると

.

2013年 7月 18日 掲載

711 
「 浮水花 2 」

.
夏の漫ろに咲く花の
水面に伸びて群れる花色

まるで無から生まれたように
何時しか浮かびて命始まる

誰に頼る訳でもなくて
自分に奢る訳でもなくて

こばると色の夏空色と
夢の気泡を抱えて揺らぐ

自分に似合った季節の中を
一日咲きて一花終わりて

華やかに儚く浮水花
短い旅の道連れに咲いて

.

2013年 7月 11日 掲載

0704
「 否 」
.

自分で無い人のことを
なんだかんだと思っても

同じ場所で生きてみなきゃ
同じ心で感じてみなきゃ
同じ身体を持ってみなきゃ

すべてが見える訳も無く
すべてが解るはずも無い

.

2013年 7月 04日 掲載

0702
「 降臨 」
.

深き翠の地に
魂ごと委ねる時
天空より降り注ぐ
神聖なるモノ

静寂の時に気付く感謝
偉大な中で知る稚拙

深きに包まれ学ぶ無能
慈愛に抱かれ満つるモノ

.

2013年 7月 02日 掲載

130607 (8) 
「たゆたう」

.
心の中から吹き出す風に
押し流されそうになる

しなやかに生きるとは
このまま なびくことなのか?

凛として生きるとは
これに動ぜず佇むことなのか?

たゆたう身体の内側で
何かが嘲笑っている

迷うようでは儚いだけよ
自分を信じる勇気は無いのか?

.

2013年 6月 24日 掲載

20130618
「でんでん虫」
.

許された青い空の時
その刹那にさえも
委ねきれず

薄い殻を脱ぐ術も知らずに
閉じ込めたままの内は
穏やかな中の悲しみ

いつも何か寂しいのは
身体も心も解放できずに
触覚だけで生きているから

でんでん虫
目を出して 頭を出して

でんでん虫
早く此処へ出ておいで

.

2013年 6月 18日 掲載

201306132
「 心三相 」

.

想い 溶かせば
液体になる

涙 燃やせば
気体になる

思い出 集めて
個体にする

.

2013年 6月 13日 掲載