子猫に恋した黒い猫 2013/8/7

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[子猫に恋した黒い猫] …みどりうさぎの小さな物語より…

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真っ黒でビロードのような毛と、真っ直ぐ長い尾が自分でもお気に入りなんだ。
路地裏を散歩すれば女の子達がなにやら騒がしくなる。
見かけだけではなく、仲間からの信頼も厚い・・・そう、この町でボクを知らない猫はいない。
しかし実は、決して誰にも知られたくないが 猫見知りでナーバスなところがある。
そのせいで、今日まで一度も大好きな子にコクったことなど無いんだよ・・・。

そんな、ある日の午後だった。突然、胸がキューンとするような子猫ちゃんに出逢ってしまった!
ボクは一瞬で恋に落ちたんだ。
自慢の長い尾を一直線に空に向け、わざとさり気なく歩いたけれども体が揺れるほどドキドキだった。
子猫ちゃんは、その場から動こうともせず じっとボクを見ていたんだよ。
もしかすると、ボクのこのステキな尾に見とれているのかなと思いながら・・・ちらっと振り返った。
そうしたら、彼女のまんまるい瞳から大粒の涙がこぼれていた。ボクは驚いて、思わず近づいたんだ。
彼女は泣きながら言った・・・。
「どこか遠くのお家へ行っちゃった私のお兄ちゃんと、同じ しっぽだったから、思い出して淋しくなったの」
そうなんだ・・・ボクは彼女が泣き止むまで側にいてあげた。

それからと言うもの、朝も昼も夜も、ボクのことをお兄ちゃん、お兄ちゃんと呼んで傍から離れようとしなかった。
ボクは、可愛くて可愛くて 大好きで大好きで・・・
ボクにくっついて眠る子猫ちゃんを、何度も抱きしめたくなっては我慢した。
これが、葛藤っていうものなのかもしれないな。

ある暑い夏の夜のこと、彼女の小さな体は、高い熱で小刻みに震えていた。
お兄ちゃん お兄ちゃんと、うわ言のように繰り返していたんだ。
きっと、本当のお兄ちゃんに会いたいのだろうな・・・と、思うと可哀想だった。
閉じたままだった彼女の目が少し開いた時、ボクを見て安心したように「お兄ちゃん」って呼んだ。
息をするのさえ苦しそうなのに ずっとボクのことを、呼び続けていたんだね。

ボクは決めたんだ!
この子のお兄ちゃんでいようと。ずっと、この子を守ってあげようと。
でも、大好きなんだよな・・・。 でも、お兄ちゃんだからさ・・・
きっと、ボク達はいつまでも こうして寄り添って一緒に生きていくような気がする。

2013年 8月 07日掲載
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