みどりうさぎの子守詩 (片井 絽々)
「砂時計」
未来から過去へと流れ
時はいつも途中
そのくびれた今を
抗いながら生きてみる
止まることはできないけれど
急ぐこともできないから
ただ ひたすら正確に
一粒ごとの過去を積もらす
幸せも悲しみも
心を過ぎゆき時を過ぎゆき
昔話を積もらせる
そう まるで砂時計のように
スカーレットという名の
物語のような赤色があります。
エメラルドグリーンという名の
眠るような緑色があります。
エクルベージュという名の
柔かな肌色があります。
どの色も人達の心に似て
465色の悲しさと幸せの色でした。
意識的なことって
カッコ良くて
ステキなのだけど
心が動かないのです。
無意識なことって
気づかない間に
心に染みてきて
人は人を
受け入れるのですね。
花のつぼみのように
両手を合わせば
この丸い宙の内で
ひとつふたつと
想い出が眠る
掌をひらけば
幼い頃の記憶の中
父の大きな膝に座り
お嫁さんになるねって
ゆびきりをした日
母を看る夜明けに
そろり掌をひらけば
想い出の花 病室に舞う
唇を湿らせると
アリガトゥと言った
老いた身の
乾いた掌を眺めれば
嬉しきかな哀しきかな
人生は映画のような
感動で満ちている
この左手のくすり指
きつく巻かれし赤き糸
この身の涙 滲みし色よ
手繰るほどに 濃く染めて
この左手のくすり指
きつく絡むは運命糸
この身を放つ 術も無く
逃げゆくごとに 引き寄せられて
この左手の赤き糸
永遠に絡めた運命糸
霞の空に舞う桜花
はらはら散る刻 運命の花よ
川面に流れし
花いかだ
離れ 留まり
追いつき 寄り添い
この左手のくすり指
互いの命 繋げて流れて
永遠に契りし赤き糸
君と絡めた運命糸
「春の舞い」
東風に吹かれ
さくら舞う
はらりひらり
花の舞
空を染め尽くし
花色 はる色
星と戯れ
虹色 ゆめ色
小指に止まって
紅となる
髪に止まって
花のかんざし
桜らんまん
蝶の舞い
花らんまん
春の舞い
早く
早く
早くおいでと
どこかで誰かが
待ちわびる
淋しい
淋しい
淋しいと
誰かの泣いている
声がする
悲しい
悲しい
悲しいのはいや
春よ来い春よ来い
早く来い
お日さま色の
花が開いて
並んで咲いて
ちょうちょになった
ふわり ふわりと
お空まで
飛んでいったのは
午後のこと
お菓子のような
やわらか色
わずかに揺れた花の中
そうっと そうっと
のぞいて見ると
おやゆび姫が
お昼寝してたのは
午後のこと
ひとつの未来を迎えるために
いくつかの時を思い出にする頃
甦るために今を越える
切なさや悔しさを許して忘れる頃
過ぎたことは語ることなく
捕らわれない景色に見送られる頃
総てを留めることなく
時空の優しさに絡めて流される頃
与えられる数と
失うものの数は
同じなのかも知れません。
誰かに有るものが
自分には無いと思っても
悲しみの数と
幸せの数が同じなら
誰も同じだけの
喜びと切なさを抱えながら
笑っているのですね。
.
.
星達が海に落ちてゆく
夢が燃える音がした
追うように昨日が沈んだ
波間に僅な悲しみを散らして
ここまでの物語は終った
ここからの物語が始まる
夢の音が大地に打ち寄せ
海の中から太陽が湧き上がる
今宵ふたたび幾千の星達も
夜空に寄り添うだろう
陽が昇れば何度でもやり直せる
星が瞬けば何度でも夢を見れる
小さな呼吸を
チクタクと繰り返して
1日が終わったね。
小さな満足のために
なんだろう
今日も頑張ってみたけれど
切なさの音が聞こえる。
幾度となく胸の奥
キューンとした冷たさが
支配するんだ。
今日だけは頑張るのをよそうか
なんだろう
心が眠かったんだね。
最小の数は
最大の数を抱き
万物の誕生より先に
存在したのかも知れない
無限大の宇宙を詰めた
この人間さえも一人と数え
無限大の時が過ぎ行く
この時空さえも今とする
総てを総括する
不思議な始まりだった
.
君を送った冬が また廻ってきた
やっと 君の無い風景に慣れてきたのに
今年 初めての北風が走る
今年 初めての雪が舞う
君を送ったあの日も
今日のような冷たい日だったね
吹きすさぶ北風さえも一緒に泣いていた
肩に止まった雪が涙のように溶けて流れた
今年 初めての北風が走る
今年 初めての雪が舞う
君と兄弟のように育った人が
今朝は黙って
この空のどこかを見ていた・・・
君の妻と子供達は
どんな思いで
この雪を止まらせているのだろう・・・
君の母さんは
また そっと手を合わせて
ひとり北風の音に祈っているのだろう・・・
白い雪が舞うと
あなたを思い出します。
二度と逢えなくなった人とは
季節の中ですれ違うのですね。
いつか誰もが四季の中に
そっと溶けて季節を廻るのですね。
夢の中の人が言う
あなたをずっと探していたと
驚いて目を開けたけど
やはり夢の中でした。
夢の中の人が言う
ふたりで旅に出ましょうと
しかし眠る身体は
現実に張り付いたまま
夢の中の人が言う
今宵 夢で逢いましょうと
意味不明な現実逃避
眠っているのは夢の中ですか。
心を隠すように
少し早めのコートをまとう
寒いからではなく
寂しいからです。
涙を隠せるように
降りしきる雨の中を歩く
悔しいからではなく
優しいからです。
貴方は私と出逢って
幸せでしたか?
貴方は私に出逢わなければ
もっと 平凡に生きられたのに
もっと 笑って生きられたのに
なのにどうして
幸せって言うの?
小さくなった母が 淋しい
丸くなった背中が 悲しい
僅かな傾斜のこの道さえも
ため息に押されて足を出す
幼い日 手をつないだこの道で
私はたまらず立ち止まる
どうして もう少し早く
心添えられなかったのかと悔やむ
小さくなった母が淋しい
丸くなった背中が悲しい
その背に負われて見た 故郷は
僅かの間に 過ぎ去っていた
.